『羊と狼』カウントダウンサラリーマンのエレジー

羊サラリーマンの日常、及び回顧録

J.L物語③/マルチ洗脳ショー

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一人ホールの最前列に残された私は

何となく状況が見えてきた。

彼女を恨むわけでもなく

腹も減りがてら、腹をくくることにした。

 

(後に別スレッドを立てるがマルチは初めてではない)

 

30年近く経っているので

時系列や話の流れは曖昧だが

断片的に強烈に覚えていることも多い。

 

まずは

ショー(実際はセミナーと名打っている)が始まって

程なくして感じたのは

「えっ?部外者って俺だけ?」

そう思ってしまうほど

アゲインストが吹きまくる環境下だった。

 

内面から醸し出すやんちゃぶりが

隠そうにもどうしても出てしまう

進行役の若い男が

「そうだよね?!」

「みんなそう思うだろう」

等とシャウトするたびに

会場の私以外と思われるほぼ全員が

揺れるくらいに

「そうだ!」

「その通り!!」

と合唱するのである。

 

さすがに

もう退出するか。

とも考えたが、

彼女の顔をつぶすことになるかもしれない。

それは、俺の男が許すわけにはいかない。

 

感心したのは

恐ろしい心理戦であること。

腕を、膝を組むと。

「人が話をしているのに腕組みをして

聞いている奴がいる。いくら学歴があっても

最低だと思わないか!!」

「そうだ!!」

と合唱。

 

こちらも合掌。

 

えっ?俺のこと、確かに今腕を組んだけど

 

「こんな(すごい儲かる)話をしていても

大学を出てるやつらは

悔しいので、世の中は金が全てじゃないんだ。

とかすぐに言うんだぜ」

「そうだ!!」

 

・・・すごい。

なんでわかったの?確かに、今そう思ったし。

 

こんな具合で、こちらの思考を

先回り、先回りして潰していく

そして、「そうだ!!」の合唱で追い込んでいく。

 

「上等じゃねぇか。」

羊の中の狼が吠えた。

lonewolf1964.hatenablog.com

 

「俺の意志の強さを見せてやろうじゃねぇか。」

かつて、自分の意志の強さを実験するために

鳥の名前の宗教団体に潜入しようかと

一瞬思ったことがあるくらいだ。

布団ごときにいかれると思うなよ。

 

時はバブル絶頂期

ステージ上に

パステルカラーのスーツを着た

というか、着こなせてない感にあふれた

進行役の男よりも

正直にやんちゃ連中が並んだ。

 

進行役がテンポよく

マイクを向ける。

「乗ってる車は?」

「アーマーゲー・・」

ん?アルマゲドンか?言ってることが良くわからん。

「先月までの仕事は?」

「鳶っス」

「君の車は?」

「S600ッス」

ん?Sサイズの腹回り60か?

「君は前の仕事は?」

「配管工ッス」

 

「みんなぁ、この若さで大学出て

 アーマー・・・S・・・乗・れ・ま・す・か?

 乗れませんよね?」

「そうだ!!」

 

こんな展開。

こちらが疲れてくると

矛先が向いてくる。

「人の話しも聞けないやつが会場にいる」

「そうだ!!」

 

もしかして空腹も

マニュアルに入ってる?

そこから、始まってたの?

 

そんなことも考えながら

「くだらん集まりだ」と思っていると。

見透かされたように

「高学歴のやつに限って、負け惜しみで

どうせ、くだらないと思っているだろう!!」

「そうだ!!」

と畳みかけられる。

 

これを考えたのは

きっと高学歴のやつだな

と思った。

 

とにかく

疲れ切って、ショー(セミナー)は終わった。

 

「俺は俺の責任は果たした」

と感慨にふけり、ブル子を探した。

ブル子は会場の大勢の人に愛想を振りまきながら

近寄ってきて

開口一番

「どう?響いたでしょう?!」

「悪いが、まったく(別の意味では響いたが)」

「えー!ザンネンねぇ」

 

「さて、遅くなったけど、約束の飯でも食うか」

「ごめんね。私、まだこのあと、色々あってさぁ。

 また飲みに行こうよ」

・・糸井先生の大人語辞典には

「また飲みに行こう」という

果たされることのない約束という

社交辞令が紹介されている。

 

陽はすっかり東京湾に落ちて

まだ、建物も今ほどは多くない晴海に

宵闇が忍び寄っている。

 

何とも言えない

もやもや感を背負って

バスと電車を乗り継いで

新宿へ向かった。

 

とんでもない日だったなぁ・・

そう思った瞬間に

ポケットに違和感があった。

 

傘立てのキーだ。

「しまった・・・ホテルに傘を忘れてしまった・・」

なんて日だ。

 

もう、2度とあの場所に行く気持ちはわいてこない。

黒い高級コウモリ傘は

マルチの合唱と共に

晴海ふ頭に消えていった。

 

 

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