『羊と狼』カウントダウンサラリーマンのエレジー

羊サラリーマンの日常、及び回顧録

J.L物語➁/真昼間に晴海のホテル

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空腹と怒りを抑えつつ

バスに揺られ

晴海へと向かった。

 

車中でブル子は

離婚やその後の話しを

屈託なく話してくれた。

もちろん、30年以上経った今は

全て忘れたが

黙って彼女の話しに

耳を傾けていた。

 

元々、幸薄しな感じの子であったので

何となく同情の気持ちが

沸き上がってきたのと同時に

バイト時代と違って、スーツ姿に

それなりの化粧を施しているせいもあり

これからの行き先が

気になり始めた。

 

なぜ、銀座でランチをやめたのか?

彼女だってお腹は空いているはずだ。

なぜ晴海なのか?

そして、ホテルに移動しなければいけない理由は

なんなのか・・

 

バスを降りてから

ほどなくして小ぶりなシティホテルのエントランスが

見えてきた。

 

自動ドアをくぐる瞬間

僅かに私の視界に

本日の催しを掲げた表示の中

ジャパン・・の文字が

一瞬だけ入り

反射的に記憶の片隅へインプットされた。

 

突然、彼女はは急ぎ足になり

「早く、早く」

と私を追い立てた。

 

??

ん?

なんで急ぐ必要があるの?

誰が待ってるの?

そんな、???だらけの私をよそに

ずんずんと押し進み

観音開きのドアを開けた。

 

CPUが現実の把握に追いつかなかった。

観音開きの奥には

シアター形式に並べられた椅子に

びっしりと人が詰まっていた。

圧倒される私を気にすることもなく

彼女は私の腕をつかみ

最前列へ引っ張っていった。

 

走馬灯のように流れる

人、人、人

そして、人のいないポッカリとした空間に

なぜだか、不自然にベッドが置かれていた。

 

最前列の

まるで私のためにあらかじめ用意された

指定席のような椅子に座らされ

彼女はそっと、呟いた。

 

「終わったら来るからね」

 

オ・ワ・タ・ラ・ク・ル・カ・ラ・ネ

 

おい・・・ランチは

ランチはどうなったんだ!!

 

そんな願いも空しく

非情にも

観音開きの戸は

閉じられ、

史上最悪のショーの

幕が切って落とされたのであった。

 

 

 

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