前日の大雪で
雪景色のイヴを迎えることになった。
家の前は数十センチの積雪だが
ノーマルタイヤの車でお出かけだ。
ソロ〜リ、ソロリと
車を発車させた。
幹線道路に出れば
雪解けも進んでいるだろう。
最大の難関は
住宅街から幹線道路に出る間際の
下り坂だ。
前から軽トラが一台直進してきたので
かなり距離はあったが
下りに入る手前で車を停車させた。
と、同時に相手の車も
やや逃げ場のある場所に
車を寄せて停車した。
よく見ると紅葉マークの軽トラ
近所の爺さんだ。
「爺さん、こっちは下りだ。
万が一滑って、おたくの軽トラに
突っ込むとマズイから
そっちが先に上がってきてくれ」
と心の中で呟いた。
しかし、相手の車はぴくりとも動かず
挙句の果てに「お前が来い」
と言わんばかりに
クラクションとパッシングを食らった。
まぁ、好意的なアクションかと
この時は思ったが
こちらも万が一
雪でスリップしたときのことを想像すると
動くわけにはいかない。
両者の不毛な睨み合いが始まった。
5分、10分、15分と
時は過ぎていく。
俺も頑固だが、この爺も相当頑固な奴だな
段々と腹が立ってきた。
いいだろう、そっちが腹をくくったのなら
こっちも負けちゃあいられない。
てこでも動かないゾ!
睨み合いが始まり20分が過ぎた。
アメリカ南部だったら
既に散弾銃で殺られているかもしれない。
そろそろ予定の時間が迫ってきた。
私には選択肢が2つ
もう一本狭くて急坂な道を選ぶ。
車での外出をやめる。
爺が発進しないうちは
私には前進の選択肢はない。
そして、本日の予定を頭で確認していると
忘れ物をしたことに気がついた。
このままバックで家の前まで下がって
荷物を取れば私の負けではない。
爺がどう思おうと、
彼のために後進するのではなく
自分の都合でバックするのだ。
その間に彼がどうしようが
私の知ったこっちゃない。
考えがまとまったところで
勢いよくバックし
忘れ物を取り、車に戻った。
家の前を爺の軽トラが行くのが見えた。
「爺さんこの勝負イーブンだな」
心で呟き
雪の残る下り坂へ
ハンドルを切ったのである。
みゆきが
“頑固者だけが悲しい思いをする”
と世情で歌っているのに。。