『羊と狼』カウントダウンサラリーマンのエレジー

羊サラリーマンの日常、及び回顧録

第1回小豆島一周ウルトラウォーキング/80km

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あまり充電は進まないまま

第3AIDを出発した。

 

あらゆる面で勝負の区間がやってきた。

人生最長ウォークが60km

今から、それを超えてゆく。

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さらに、疲れ、眠気、痛み、深い闇・・・

全ての苦悩が襲ってくる時間帯だ。

 

ここへ来て

終わりの見えないアップダウンが続く。

思考は定まらず、しばし朦朧とする。

音楽の効力も脳の出す命令には勝てない。

「寝たい…」

しかし、暗闇の道路に座り込んだら

もう二度と立ち上がれない気がした。

 

限界との戦いの中

進行方向左に東屋が見えた。

「こんなところに・・地獄で仏とは

このことだ!」

と思って、フラフラと

吸い寄せられそうになったが 

驚くべきことに

人影が視界に飛び込んできた。

しかも、女性だ。

ウォーキングスタイルだから

こんな山奥だが幽霊ではない。

一瞬にして躊躇してしまった。

 

なぜならば

些細なことも気になる性格の羊は

同じ大会のウォーキング中とは言えど

女性が一人腰掛けた

真夜中の東屋に、

お邪魔できるわけがない。

と瞬間的に判断し、躊躇の気持ちを残し

通り過ぎてしまったのである。

かように、男とは意外に女性に対して

気を使っているものである。

 

すぐに後悔が襲ってきた。

「いや。きっとこの先にまだ東屋はある。」

そうやって、根拠のない自信が自らを支える

また、朦朧とし始めたとき

「おぉ!!ジーザス」

あった。東屋だ!!

 

10分足らずウトウトした。

それでも充分だ。

少しエネルギーが回復してきた。

 

しばらく歩き続けると

珍しく数人の集団に追いついた。

私の右斜め前に女性。

アップヒルなのに

そこそこ速いペースで歩いている。

しかも、この時間に

左斜め前には男性。

やや足を引き摺り気味だ。

困ったことに

ほぼペースは同じで、

まさに箱根駅伝の鶴見中継所バリに

三つ巴の様相を呈している。

 

僅かに

本当に僅か

私のペースが速く

意識的に調整しないと

車だったら煽りになっちまう。

 

ここへ来て

他人にペースを合わせるわけには

いかない。

追い越しを決意した。

右側の女性も一歩も引く気配はない。

上級者だろう。プライドもある。

(勝手にそう思った)

気力、体力が減退している中だが

My best Musicもいい選曲になってきた。

ミッドナイトウォークの祭りが始まる。

「よし。今だ!」

 

自分のことは、

いつも10歳位若い感覚が捨てきれない。

だから、見た目

自分より年上らしき人を見ると

“おじさん”とか“じいさん”とか思ってしまう。

単純に見た目の白髪等で勝手に思い込み

実際歳を聞くと、自分より若かったりする。

 

足が重そうなじいさんに追い越しをかけたが

じいさんもどうやらアクセルを踏み込んできた。

並走したまま、追い越せない。

「じいさん、何がそうさせるんだ。

もう丑の刻も近い。頼むから道を譲ってくれ。」

しかし、じいさんにも意地があるんだろう。

一歩も引かない構えだ。

右の女性もピタリとくっついている。

 

瞬間

真夜中の丑の時刻に

ランナーズハイがやってきた。

表現するなれば

ターボエンジンが唸りを上げた。

みるみる間に二人が遠ざかってゆくが

後ろを振り向くなんて

そんな失礼なことはできない。

二人が視界から消えるだろう

距離まで突き放すことにし

まだ、こんなエネルギーが残っていたのか?!

と、自分でも驚くほどの健脚で

スピードを落とすことなく

坂道を加速しながら駆け上っていった。

「あばよ。じいさん。恨むなよ。」

 

ターボチャージが切れる頃

二股の道路脇に

目立つように停められた車の前に

スタッフの姿があった。

「AIDまで後、どれくらいですか?」

すると、予想外の方向を指差し

「山道を1km位登りつめたら左折して

200m程であるから。頑張って!」

??山道?

今、歩いている道、十分に山道だけど・・

 

先程までを超える暗闇と

泣きたくなるような坂道が現れた。

誰もいないことをいいことに

「マジか!?マジか!?」と

一人連発しながら

それでも、ペースを落とすことなく

まさに取り憑かれたかのように

TEPPENを目指した。

 

着いた…

やっと…

最後のAIDは野営風だった。

トイレはスタッフによる車移動で

10分程かかるらしい。

 

明け方近くなので

温かいポタージュスープが有難い。

サンドイッチを頬張っていると

追い越した人達が入ってきた。

察するにあの坂道もペースを落とさずに

登ってきたんだろう。

 

お腹は満たされた。

しかし…

仮眠が…できない。

思い返せば

第3AIDで

「仮眠する人はここで」と

繰り返してたような…

 

冷静に物事を判断する思考はなかった。

重いリュックから

雨天用のカッパを取り出し

着込むやいなや、

ブルーシートに倒れ込んだ。

重い荷物が活かされた瞬間だ。

30分程仮眠したが

空が白んで来て目が覚めた。

「夜明けだ。行かなきゃ。」

追い越した人たちの姿は既にない。

 

制限時間は27時間。

あと10時間はある。

何もなきゃ、何とかゴールは出来そうだ。

 

ラスト20kmを目指して

朝焼けの中、出発した。

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